スコットランド発、クラフト・ジンで紡ぐ“島おこし”

ハリスといえば、高品質な織物ハリス・ツイードが有名。そのツイードが生産される島は、スコットランド北西岸に連なるアウター・ヘブリディーズ諸島にあります。ハリスは、ルイス島という島と陸続きの島で、旅してみると「ほとんど一つの島」の印象です。

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ハリスは、ヨーロッパで大人気の“最果ての島”

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ハリス島まで、スコットランド最大都市グラスゴーからは車とフェリーで1日がかり。それでもイギリス国内はもちろん、ヨーロッパ全土で人気が高く、夏休み期間は宿泊予約が困難なほど。お目当ては、最果ての地ならではの海と岩が織りなす風景。古くから作家や詩人をも魅了してきたといいます。さらにスコットランドとは思えない白い砂浜も有名です(ただし夏でも海水は冷たいので、泳ぐ人はいない)。

しかし観光地として人気が高い一方で、厳しい現実もあります。それは島では高等教育が受けられないため、多くの若者はスコットランド本土の大都市に出てしまうこと。(だから若者より羊の数の方が多いと言われる)スコットランドも日本も、島の若者流出という同じ課題を抱えているようです。

 

蒸溜所で島おこし、というアイディア

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「なんとか若者流出を止め、島を活性化させる方法はないだろうか?」ハリス島の人々がアイディアを出し合った結果、これまで島になかった蒸溜所を作れば、雇用を創出でき、見学に訪れる人々で島は賑わうのではないかという考えにたどり着いたといいます。その答えが、クラフトジン蒸溜所アイル・オブ・ハリス。高品質なクラフト・ジンをつくるだけでなく、雇用を創出して地元経済を活性化しながら、ハリス島のスピリッツとアイデンティティを世界に広める「ソーシャルな蒸溜所」として2015年9月に設立されました。

 

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訪れたのは2019年6月中旬。日本で言えば、蒸し暑い梅雨ですが、ハリス島は太陽が隠れると、少し寒いくらいです。「ようこそ(WELCOME)」の看板を超えてすぐ暖炉が迎え、島巡りをするサイクリストやバイク乗りが暖を取っていました。

 

観光客でにぎわうハリス・ジン蒸溜所

中に入ると、施設も、ジンのボトルも、モダンなデザインで統一感があります。実はハリス・ジンは、2018年には「スコットランド・食&ドリンク賞」を獲得しています。スコットランドのカフェ、レストラン、バーで、ハリス・ジンを扱っている店舗は多く、人気は相当高く、スコットランドでは現在かなりの数のクラフト・ジンが生まれている中で、ハリス・ジンは勝ち組のクラフト・ジンと言えます。

 

地元の昆布等でジンの個性作り

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人気の理由は、ハリス・ジンならではの豊かなフレーバー。ハリス島特有のボタニカル(植物)をミックスしてつくられており、香りの原料は全部で9種類。ジュニパーベリー、コリアンダー、アンジェリカ・ルート、オリス・ルート、クベバ・ペッパー、ビター・オレンジピール、リコリス、シナモンの他、地元で収穫したシュガー・ケルプ(昆布)も主要原料のひとつとして含まれている点がユニーク。島のダイバーたちが手で獲った昆布がジンの自然な甘みとどこにもない個性を生み出し、ジン愛好者を魅了しています。

 

洗練されたカフェの味も人気

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蒸溜所が経営するカフェの味も、お楽しみの一つ。ここのスープはかなり評判が高く、食べて納得しました。訪れた日のスープは、イギリス特産バターナッツカボチャを使ったカレー風味のスープ。失礼ながら田舎臭さを全く感じさせないセンス溢れる味わいで、体を芯から温めてくれました。一緒に食した燻製サバと新ジャガをハリス・ジン入りのドレッシングで和えた一品も絶品。ランチのメインとしてはもちろん、お酒のおつまみ(もちろんクラフト・ジン!)としてもぴったりでした。

 

実はアイル・オブ・ハリスは、クラフト・ジンを作る一方で、スコッチ・ウィスキーの出荷も目指し、生産を進めています。蒸溜所付近を訪れると、ウィスキーの酵母の香りが立ち込めていました(普通、ジン作りだけだと、酵母の香りはしない)。そしてウィスキーの資金作りのために創設されたのが「THE1,916」。出資金400ポンドを出すかわりに、初代出荷のウィスキーが出資者に贈られるという仕組みになっており、出荷に向けて順調にビジネスは動いているといいます。

 

アイル・オブ・ハリスは、日本人にとって決して近い場所とはいえません。しかしそこには美しく穏やかなハリス島と優しい人々が待っています。忙しい日本を離れて、個性豊かなクラフト・ジンとともに「時が止まったような時間」を最果ての島で堪能するのも、たまにはいいのかもしれません。

 

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