祈りの場から、憩いの酒場へ変身したスコットランドの人気Bar。
イギリスでは、教会へ祈りを捧げに通う人が急減。教会が廃業を余儀なくされ、他の目的へ活用される例が増えていると聞く。多くは住宅や集会所として再利用される一方で、イギリス連邦国の一つスコットランド最大都市グラスゴーにある元教会は’’バー’’として活躍している。
店の名前はCottiersコティエール。看板を見ると、Cottiers - More than just a Pubとある。単なるパブ以上の存在と言ったところだろうか。
建物内部を見渡すと、さすが元教会と言いたくなる天井の高さと室内の広さ。建物自体のアンティーク感は残しながらも、新たに施した温かみある壁紙や、ステンシル装飾、イエローゴールドのライティングが見事にマッチ。そして外部の光を取り入れる窓枠の形状が何より美しい。
実はこの建物、1865年に建てられたもので、当時高名だったグラスゴーの建築家ウィリアムレイパーが、装飾家ダニエルコティエールの協力を得て、美しいステンドグラスとステンシル装飾を施し、建立した教会だった。そして一世紀の時を経て建物の修復が必要になったのだが、減少の一途をたどる信者の資金だけでは足らず、トラストの下で多目的な場として修復されることに。それが今のコティエールだ。
コティエールは大きく分けると、レストラン、バー、劇場の3つの顔を持つ。今回はバーに注目したい。
バーは昼間、コーヒーやサンドイッチ、フィッシュ&チップスなどを提供し、夜間になると多くのお酒を楽しむことができる場として機能する。夜8時迄であれば子供も入店可能、空間の広さが手伝い、ベビーカーの移動もラクラクのチャイルドフレンドリー、さらに動物愛護の盛んなお国柄らしくドッグフレンドリーだ。
そんな客への間口の広さを反映するようかのように、お酒の種類も多様だ。
カウンターに並ぶのは、世界各国のビールとサイダー(シードル)。人気は勿論スコットランド地元のクラフトビール。
スコットランドではここ数年急速に手造りのクラフトジンが人気を得ているのだが、ここでも例外ではない。地元グラスゴー産マカールをはじめとして、ロックローズ、ヒルズ&ハーバー、ヘンドリック、ボタニストなどスコットランド各地で産まれたクラフトジンを華やかにラインナップ。トニックウォーターで割るジントニックは、特に女性客の集客に役立っている。
ウィスキーだって忘れていない。コティエールでは、今月のモルト Malt of the Monthと謳い、オススメのウィスキーを手頃な価格で提供している。訪れた月は、スペイサイド産ブレンディッドウィスキー。バーテンダーの話によると、シェリー樽で熟成させることからほんのり甘く香る、ウィスキー嫌いの人も好きになるウィスキーとのこと。
建物外の庭も人気。緑に囲まれて、ウッディーなテーブルとチェアーが並ぶ空間は、まさに森林浴気分。日照量が少ないスコットランドでは、貴重な日の光を浴びたい人が多く、外で飲める場所とあって夏場はグラスゴー市民に大人気のビアガーデンになる。
教会の時代に多くの人々が集まった祈りという場から、今は憩いの場へと目的はガラリと変わったが、多くの人々の心を癒す場所へ生まれ変わったのだから、建築家レイパーも装飾家コティエールも天国から笑って見守ってくれているに違いない。